予測される副作用とその対処法

予測される副作用
アネレム®投与時に予測される主な副作用には、呼吸抑制、血圧低下、徐脈があります。
呼吸抑制、低酸素症
▶ 発現しやすい状況、患者
呼吸抑制が発現しやすいのは、心血管系障害のある患者、高齢者、上気道閉塞が起こりやすいと考えられる疾患(高度肥満、小顎症、扁桃肥大、睡眠時無呼吸症候群等)を有する患者です。

呼吸抑制や低酸素症に適切に対応するために、呼吸状態を正しく把握することが必要です。鎮静剤やオピオイド鎮痛薬の投与時に生じる呼吸抑制には、「意識消失と頸部の筋緊張低下による上気道閉塞」と、「呼吸中枢の抑制による呼吸数の減少」があり、両方生じることもあります。よって、まず、気道閉塞の有無や、胸郭や腹部の動きを確認してください。
<上気道閉塞の兆候>
呼吸運動はあるものの、上気道が閉塞しているため以下の特徴が見られる。
・ 吸気時に胸郭が下がり、腹部が膨らむ(陥没呼吸)。
・ 鼻孔を広げたり、頸部や肩の筋肉を使う努力性呼吸をしている。
・ 胸腔内に強い陰圧がかかるので、肋間や頚窩が陥没、喉頭が吸気時に足側に動く。
・ 吸気時に喘鳴が聞こえる(閉塞の程度が強い場合、聞こえないこともある)。
▶ 臨床試験における発現状況
臨床試験(REM-IICT-JP01試験、REM-IICT-JP02試験)におけるアネレム®投与群において、呼吸抑制の副作用の発現はありませんでした。低酸素症の副作用の発現率は、REM-IICT-JP01試験で116例中0例(0%)、REM-IICT-JP02試験で62例中8例(12.9%)でした。低酸素症の副作用を認めた8例は全例が酸素投与量の増量によって回復しました1,2)。
呼吸抑制の対処法
10回/分以下を目安とした呼吸抑制発現時、又はSpO2 94%以下を目安とした低酸素症、舌根沈下、無呼吸等の症状発現時には、患者の刺激、気道確保、酸素投与、バッグバルブマスクによる換気等の適切な処置を行います。体位による影響も考えられるため、呼吸しやすい体位への変換が必要です。
<呼吸抑制発現時の対応>
・ 名前を呼びかける、刺激を加える。
・ 気道確保(下顎挙上等)
上気道の開通性を確認した後に、以下について対応する
・ 酸素吸入
・ 拮抗剤(フルマゼニル)投与
気道確保の手法
上気道閉塞を解除するための手法は、頭部後屈顎先挙上法や下顎挙上法です。これらの方法により呼吸状態が改善しない場合は、バッグバルブマスク換気を用いた用手換気を行います。

▶ 頭部後屈顎先挙上法
頭部後屈顎先挙上法は、片手を額に当て、もう片方の手の人差し指と中指の2本を顎先に当て、持ち上げて気道確保する方法です。
ポイントは、以下のとおりです。
① 下顎の柔らかい部分を圧迫しない
( さらに気道を閉塞させるおそれあり)
② 過後屈にしない

▶ 下顎挙上法
下顎挙上法は、患者の頭側に位置して両手で下顎の部分だけを上に持ち上げる方法です。頚椎症や頭部後屈困難症例に適しています。気道開通に難渋する場合、経口エアウェイ等のさらなる補助が必要となります。

バッグバルブマスク(アンビューバッグ)の使い方
以下のいずれの方法でも、マスクで患者さんの鼻と口をしっかり覆い、皮膚に密着させておかないと、バッグを押したときに、空気・酸素がマスクの隙間から逃げてしまい、必要な換気量を維持することができません。
▶ 1人でバッグバルブマスクを使用する場合
一般的に親指と人差し指でアルファベットの「C」の形を作り、中指・薬指・小指の3本の指で下顎を挙上する「EC法」が用いられます。バッグを押すときはこのEC法でしっかりマスクを固定して気道を確保してください。

1人で行うEC法
▶ 2人でバッグバルブマスクを使用する場合
1人がマスクを固定し、もう1人がバッグを押す「VE法」を用いるとマスクを容易に固定することができます。具体的には両手の親指でマスクをしっかり固定させ、残りの指で下顎を把持して気道確保をすると、上述のEC法よりも確実にマスクを密着させることが可能です。

2人で行うEC法

2人で行うVE法
写真提供:聖マリアンナ医科大学 麻酔学
エアウェイ使用による気道確保
弛緩した舌が咽頭後壁に付くことで発生する上気道閉塞(舌根沈下)に対しては、エアウェイを用いた気道確保が有効です。器具を用いた気道管理法として、経鼻エアウェイや経口エアウェイが救命救急の現場で広く使用されています。
▶ 経鼻エアウェイ
挿入に際して苦痛により血圧の上昇がみられますので、挿入に際しては十分に血圧上昇に留意して行う必要があります。また、鼻出血の恐れがあります。
▶ 経口エアウェイ
挿入に際して嘔吐や咽頭痙攣が誘発されることがありますので、咽頭反射が消失していない状態では経口エアウェイを行うことは推奨されません。挿入時に咽頭反射が消失している深昏睡患者でも意識回復時に咽頭反射が再出現するため、意識回復時には速やかに抜去してください。
なお、経鼻エアウェイ、経口エアウェイのいずれにおいても、不適切なサイズのものを使用したり、不適切な場所に挿入したりすると、舌根を押し込んでしまい、気道閉塞を悪化させる恐れがあります。適切なサイズのものを使用し適切な手技で挿入するようにしてください。

経鼻エアウェイ

経口エアウェイ
■ エアウェイ使用時の注意点

拮抗剤(フルマゼニル)投与による呼吸抑制の対処
酸素投与や気道確保でも低酸素血症が改善しない場合には、拮抗剤であるフルマゼニルの投与が必要です。
フルマゼニルは、初回0.2mgを緩徐に静脈内投与します。投与後4分以内に覚醒状態が得られない場合は更に0.1mgを追加投与してください。以後、必要に応じて、1分間隔で0.1mgずつを総投与量1mgまで投与可能です。
血圧低下
▶ 発現しやすい状況、患者
低血圧が発現しやすいのは循環血液量が減少しているとき、心血管系障害のある患者、重度の心機能障害のある患者、高齢者です。

▶ 臨床試験における発現状況
REM-IICT-JP01試験でアネレム®の投与を受けた116例中2例(1.7%)で低血圧が認められましたが、処置薬投与の医学的介入を必要とした症例はいませんでした1)。
REM-IICT-JP02試験では、アネレム®の投与を受けた62例に血圧低下または低血圧の副作用の発現は認められませんでした2)。
血圧低下の対処法
血圧管理のため、アネレム®投与中はバイタルサインの変動に注意して血圧に対する観察及び対応を怠らず、患者の全身状態を十分に観察することが必要です。
収縮期血圧90mmHg以下を目安とした血圧低下が継続しそうな場合には、下肢の挙上、輸液の急速投与、昇圧薬(例:フェニレフリン0.1~0.2mgもしくはエフェドリン4~8mg等)の投与等の適切な処置を行います。

■ 昇圧薬の種類(参考)

徐脈
▶ 発現しやすい状況、患者
徐脈が発現しやすいのは副交感神経が緊張しているとき、心血管系障害のある患者、重度の心機能障害のある患者、高齢者です。

徐脈の対処法
心拍数管理のため、アネレム®投与中はバイタルサインの変動に注意して心拍数に対する観察及び対応を怠らず、患者の全身状態を十分に観察することが必要です。
50回/分以下を目安とした徐脈発現時には、アトロピン0.3~0.5mgの静脈内投与等の適切な処置を行います。
1)社内資料:国内第Ⅱ/Ⅲ相医師主導臨床試験(REM-IICT-JP01試験、承認時評価資料)
2)社内資料:国内第Ⅲ相医師主導臨床試(REM-IICT-JP02試験、承認時評価資料)
